イタリアン・チェンバロ

InstICルネサンス期の宮廷やサロンでの音楽会、教会での演奏、またはダンス音楽の伴奏楽器としても親しまれた17世紀のイタリアン・チェンバロは、1段の鍵盤でシンプルな構造で、箱鳴りするような強く伸びのある音色が特徴です。そしてもうひとつの大きな特徴として、いまでは珍しい「分割鍵盤」という構造を持っています。16~17世紀イタリアで多く使用されていたこの「分割鍵盤」は黒鍵が前後2つに分かれ手前が低めの#、奥の鍵盤が高めの♭の音程に調律されています。これは当時の調律法による理由です。現代では各音律を平均値で割る「12平均律」を用いることが多いですが、過去に遡ると完全に純正な5度や3度の音程を作るために色々な音律法、調律法がありました。その中でルネサンス期やバロック初期によく用いられた4分の1ミーントーンの調律法は純正3度を作るため、5度は純正5度より1/4シントニック・コンマ狭く、4度は1/4シントニック・コンマ広くなります。そうなるとピアノでは同じキーである異名同音の黒鍵は、♭系か♯系によって全く違う音程になります。E♭はD#より、A♭はG#より高く…などという音程です。そのため黒鍵を分割し、それぞれの音程で純正に響くような構造を取ったのです。17世紀イタリア・鍵盤の巨匠フレスコバルディやロッシ、ピッキ、メールラなど、このチェンバロの構造ならではの響きは、その後の音楽とは一味違う瞑想的で清涼感のある音の渦をお楽しみ頂けることでしょう。