ルネサンス・ハープ

InstRHこの楽器は、16世紀イタリアの製作家不詳、現在ボローニャの「国際博物館と音楽図書館Museo Internazionale e Biblioteca della Musica」に所蔵されているハープを、ドイツのハープ製作家トゥーラウ氏 R. M. Thurauが正確にコピーしたものです。長さ127cm、幅46cmと小型で、音域はFF-e3、英語ではダブル・ハープ、イタリア語ではアルパ・ドッピア、また現代では通称ルネサンス・ハープと呼ばれます。
一番の特徴は、弦が1列に並んでいるのではなく、2列になっているところでしょう。ディアトニックとクロマティックの弦が1列ずつ、計2列の構造です。しかしそれは単純な2列ではなく、真ん中あたりのc音を境にして、右手側の高音域には右側がディアトニックで左側がクロマティック、一方、左手側の低音域は反対に左側がディアトニック、右側がクロマティックに張られています。そして手から遠いほうの列の弦を弾かなければならないときは、手前側の弦と弦の間に指を通して奥の弦に届かせるように弾く・・・という現代のハープには全く無い奏法が要求されます。つまり半音操作用の足ペダルもピン近くのレバーも一切ついておらず、鍵盤でいう白鍵も黒鍵もすべての音が2列に張られているのです。このような構造にもかかわらず、弦の間隔は現代のハープよりむしろ狭く、特に高音域の方は8mmしかありません。この間隔に指を入れてクロマティック弦列を弾かなければなりません。
その後の17世紀、3列弦のバロック・ハープ(トリプル・ハープ)があらわれたことによって、このルネサンス・ハープは終わりを告げるということでもなかったようで、後々まで絵画にも多く見られ、またヘンデルのオペラ「テッサリアの王アドメトス」(1727)の表紙にもダブル・ハープが描かれています。
このように時代とともにハープが改良されていったのは、ダブル・ハープに短所があったからということだけではなく、演奏される曲やスタイルが変化したことにより楽器の改良が求められてきた結果ともいえます。16世紀のスタイルの曲においては、やはり同じ時代にあったこのようなダブル・ハープの音色とキャラクターが、最もその美しさと躍動感を表現できるようです。小型でしかも張られた弦のテンションが低いために、限られた音域の中でも、ルネサンス的で軽くきめ細かいデリケートなサウンドで様々な表情を醸し出し、多くを語ることが可能なハープです。また、低いとは言えその弦のテンションに対し限界に近く張られているボディーの木(この楽器は楓)自体が、撥弦時にすぐ反応し易いため、舞曲などではっきりとしたシンコペーションなどパーカッション的な効果も得ることができる長所ももっています。この大きさの、そしてこの機能のハープだからこそ多くの可能性がある魅力的な楽器です。